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利上げに踊らされる世界――資産家を守る金融政策と、当然の帰結としての暴動

第一章 世界中で繰り返される暴動

2026年10月17日、フランス全土で大規模な抗議活動が発生し、一部が暴動へと発展した。ガソリン代や食費の高騰、公共サービスの悪化に対する不満が噴出し、全国110か所で約55万人がデモに参加した。パリをはじめ各地で治安部隊との衝突が発生し、放火や略奪によって商店や公共施設が被害を受けた。

TBSの10月20日の報道によれば、フランスでは高校生らによる教育環境の改善を求める抗議活動が先行していたが、そこに生活苦を訴える市民らが加わり、運動が拡大した。取材に応じた21歳の参加者は、生活費が恐ろしく上昇していることや、政府が対応してくれないことへの不満を訴えている。

出典:TBS NEWS DIG『「パリがここまで荒らされるとは…」生活費高騰などに抗議』(2026年10月20日)

newsdig.tbs.co.jp

こうした抗議活動はフランスだけにとどまらない。同じ時期、イタリアのミラノでも生活費高騰に抗議するデモの一部が暴徒化し、警察との衝突や店舗の略奪が発生した。ベルギーでもデモ隊と警察が衝突し、ポルトガルでは住宅費や生活費の高騰に抗議する大規模デモが行われた。

出典:朝鮮日報日本語版『家賃・物価高に悲鳴、ミラノ・リスボンもデモ』(2026年10月19日)

www.chosun.com

しかし、生活必需品の高騰が暴動を引き起こす光景は、決して今回が初めてではない。

2008年4月、ハイチでは食料と燃料価格の急騰をきっかけに暴動が発生した。コメの価格は短期間で急騰し、燃料価格も2か月で3倍に上昇した。暴動では少なくとも5人が死亡し、国連の平和維持部隊まで出動する事態となった。最終的に議会は首相の不信任案を可決し、政権を退陣に追い込んだ。

出典:AFPBB News『物価上昇で暴動、議会は首相の不信任案を可決 ハイチ』(2008年4月13日)

www.afpbb.com

2010~2011年の「アラブの春」でも、食料価格の高騰は失業や政治腐敗とともに社会不安を強める背景となった。2018年のフランスでは、燃料価格の高騰と燃料税引き上げに反対する「黄色いベスト運動」が全国に拡大し、警察との衝突が繰り返された。

さらに2022年のスリランカでは、外貨不足によって食料、燃料、医薬品の輸入が滞り、深刻な物価高騰と停電が発生した。国民の抗議活動は政権を揺るがし、同年7月にはデモ隊が大統領公邸を占拠し、大統領が辞任に追い込まれた。

出典:AFPBB News『経済危機のスリランカ、大統領辞任へ デモ隊が公邸占拠』(2022年7月10日)

www.afpbb.com

国も時代も異なるが、これらの出来事には共通する問題がある。食料やエネルギーなど、人間が生きていくために不可欠なものが高騰し、国民が必要な量を確保できなくなっていることである。

食事を取らずに生きることはできない。暖房や調理、輸送にもエネルギーが必要となる。生活必需品の供給が不足し、あるいは価格高騰によって入手できなくなれば、国民生活そのものが脅かされる。

食料とエネルギーの安定供給は、社会秩序を維持するための基本条件である。これが崩れれば、経済危機は政治危機へと発展する。世界各地で繰り返されてきた暴動は、その歴史的な証拠である。

第二章 インフレ税を資産家から国民へ付け替える仕組み

食料やエネルギーの価格高騰が国民生活を脅かしているとき、政府や中央銀行は何を優先すべきなのだろうか。

世界的なインフレが進んだ2022年以降、米国や欧州をはじめとする各国の中央銀行は、物価安定を掲げて大幅な利上げを進めた。日本も金融緩和から利上げへと政策を転換した。

しかし、金利を引き上げるという政策には、物価上昇率への影響とは別に、誰が利益を得て、誰が負担を負うのかという分配上の問題が存在する。

インフレは物価が上昇する現象であると同時に、貨幣や名目債権の実質価値が目減りする現象でもある。

例えば、10億円の現金を保有している資産家がいたとしよう。物価が5%上昇すれば、その資産の実質購買力は約4762万円減少する。物価上昇率が2%なら、減少額は約1961万円で済む。

貨幣価値の目減りは、広い意味で「インフレ税」にたとえられる。厳密な経済学上のインフレ税は貨幣発行益との関係で定義されるが、ここでは名目資産の実質価値が減少する負担に着目している。

利上げによってインフレが抑制されれば、こうした資産価値の目減りを抑えられる。さらに預金金利や新たに購入する債券の利回りが上昇すれば、利息収入も増加する。多額の利付資産を保有する純債権者にとっては、資産価値の保全と利息収入の増加という一石二鳥の効果が期待できる。

一方、借金を抱える家計や企業にとって、予想外のインフレは名目債務の実質価値を減少させる効果を持つ。固定金利で借り入れた1000万円の返済義務は、物価が上がっても名目額が増えるわけではない。賃金や売上が物価に応じて増えれば、実質的な返済負担は軽くなる。

欧州中央銀行(ECB)は2024年の分析で、次のように説明している。

Unanticipated inflation may lead to a drop in wealth inequality by redistributing wealth from lenders to borrowers through changes in the real value of nominal assets and liabilities.

「予想外のインフレは、名目資産と負債の実質価値を変化させ、貸し手から借り手へ富を再分配することで、資産格差を縮小させる可能性がある」

これは「フィッシャー・チャネル」と呼ばれる仕組みである。ECBは、この効果が十分に働くには所得がインフレに応じて調整される必要があるとも説明している。

出典:ECB『Introducing the Distributional Wealth Accounts for euro area households』(2024年)
https://www.ecb.europa.eu/press/economic-bulletin/articles/2024/html/ecb.ebart202405_02~50a620f16b.ga.html

ところが、利上げは借り手と貸し手の関係を逆方向に動かす。

変動金利の住宅ローンを抱える家計や、運転資金を借り入れる企業では利払い負担が増える。企業が投資や雇用を削減すれば、労働者の所得にも悪影響が及ぶ。借金のない労働者であっても、金融引き締めの負担から逃れられるわけではない。

イングランド銀行は2024年8月の金融政策報告で、利上げが住宅ローン金利と預金金利に波及することによって、純借り手から純貯蓄者への所得再分配が発生すると説明している。

同報告によれば、借り手による消費削減の効果は、貯蓄者による消費増加の効果を上回る。つまり、金利上昇によって社会全体の消費が抑制される仕組みには、借り手と貯蓄者の経済的な非対称性が組み込まれている。

出典:Bank of England『Monetary Policy Report – August 2024』
https://www.bankofengland.co.uk/monetary-policy-report/2024/august-2024

もちろん、資産家の保有する株式や既発債券などは利上げによって価格が下落することもある。しかし、多額の名目債権や利付資産を保有する純債権者が利益を受ける経路と、借り手や労働者が負担を負う経路は、中央銀行自身が認めている。

インフレによって資産家が負担するはずだった実質資産価値の目減りを抑え、その代償として借り手や労働者に金利負担や所得減少を強いる。利上げには、こうした負担の付け替えという側面がある。

問題は、その負担を強いられる国民が、すでに食料やエネルギーの価格高騰によって生活を圧迫されていることである。

第三章 金利を上げても食料は増えない

そもそも、食料やエネルギーの供給不足によるインフレに対して、金利を上げることにどれほどの意味があるのだろうか。

インフレには、需要の増加によって生じるものと、供給不足や生産コストの上昇によって生じるものがある。後者の典型が、異常気象による農作物の不作や、戦争によるエネルギー供給の途絶である。

こうした供給側の問題に対して中央銀行が金利を引き上げても、農作物の収穫量が増えるわけではない。石油や天然ガスの生産量が増えるわけでも、寸断された輸送網が復旧するわけでもない。

この問題は、中央銀行自身も認識している。

イングランド銀行は2026年4月の金融政策報告で、次のように説明している。

Monetary policy cannot undo the increase in global energy prices.

「金融政策によって世界的なエネルギー価格の上昇を元に戻すことはできない」

さらに同報告の「Box G」では、金融政策によってエネルギー価格ショックの直接的な影響まで相殺しようとすれば、国内の基調的な物価上昇率や賃金上昇率を押し下げる必要があり、その結果として失業が増え、実質賃金が低下すると説明している。

出典:Bank of England『Monetary Policy Report – April 2026』
https://www.bankofengland.co.uk/monetary-policy-report/2026/april-2026

つまり、供給不足を解消できない金融政策で物価上昇率を抑え込もうとすれば、国内の消費や投資、所得を押し下げることになる。

ところが、食料は自動車や家電製品とは違う。価格が高騰したからといって、食事をやめるわけにはいかない。

IMFは2022年6月の論考で、次のように説明している。

A demand response can be sizable for energy, but much less so for food because people need to eat about the same amount.

「エネルギーでは需要の反応が大きくなることもあるが、食料でははるかに小さい。人々が食べる必要のある量は、おおむね変わらないからである」

出典:IMF『Response to High Food, Energy Prices Should Focus on Most Vulnerable』(2022年6月7日)
https://www.imf.org/en/blogs/articles/2022/06/07/blog-response-to-high-food-prices

人間には生存に必要な最低限の食料需要が存在する。エネルギーについても、暖房、調理、給湯など生活に不可欠な用途がある。

国民が生きていくために必要な食料やエネルギーの量は、金利を上げたところで大きく変わるものではない。

それでも需要を減らそうとすれば、国民は食事の量や質を落とし、暖房を我慢し、医療や教育に使うお金まで削ることになる。

国連食糧農業機関(FAO)が公開している食料価格危機に関する研究でも、貧困世帯が食料価格の高騰に対応するため、食事を抜いたり、安価で栄養価の低い食品に切り替えたりする実態が説明されている。さらに、交通費や医療費、教育費などを削ることで、健康や将来の生産性にも悪影響が及ぶと指摘している。

出典:FAO掲載資料『The Food Price Crisis and Urban Food (In)security』
https://www.fao.org/fileadmin/user_upload/fsn/docs/The_food_price_crisis_and_urban_food__in_security.pdf

供給不足に対して、需要を削るという言葉が何を意味するのか。

人々が十分な食事を取れなくなり、適切な室温を維持できなくなり、医療や教育まで諦める。そうした生活水準の低下によって消費が減り、物価上昇率が抑えられたとして、それを政策の成功と呼べるのだろうか。

金融引き締めという言葉は穏やかだが、国民の購買力を削ることを通じて物価を抑える仕組みは、まさに「庶民引き絞り」と呼ぶべきものではないか。

食料やエネルギーが足りないとき、必要なのは供給を確保し、国民が生活できるようにすることである。供給不足に苦しんでいる国民から、さらに購買力を奪うことではない。

第四章 暴動を目の前にして、それでも利上げを続けるのか

2026年10月、フランスでは生活費高騰に対する抗議が暴動へと発展し、イタリアをはじめ欧州各地でも同様の不満が噴出している。

第一章で振り返った2008年のハイチ、2018年の黄色いベスト運動、2022年のスリランカ。いずれも生活必需品の高騰や不足が国民生活を圧迫し、政治的な混乱へと発展した事例である。

これほど繰り返されてきた歴史から、各国の政策当局は何を学んだのだろうか。

食料やエネルギーの価格が高騰して国民生活が危機に陥っているとき、必要なのは生活必需品を安定して確保できる環境を取り戻すことである。

ところが、インフレ対策として利上げを進めれば、住宅ローンや企業の借入金の利払い負担が増え、消費や投資が抑制される。企業が投資や雇用を削減すれば、国民の所得にも悪影響が及ぶ。

食料やエネルギーの価格高騰によって、すでに国民は購買力を奪われている。そこに金融引き締めによる追加負担を重ねるというのである。

この問題について、イングランド銀行の2026年4月の金融政策報告は、考えるべき材料を提供している。

同報告では、世界的なエネルギー価格上昇が国内の実質所得を減少させることを認めたうえで、金融政策がその直接的な価格上昇まで相殺しようとすると、失業増加や実質賃金低下といった犠牲が生じると説明している。

つまり、物価上昇率を早期に抑え込むという目標を優先すれば、その費用を国民の雇用や所得に負わせることになるという問題を、中央銀行自身が認識しているのである。

そもそも、物価上昇率が低下することと、国民生活が改善することは同じではない。

仮に食料品の価格が前年から10%上昇し、翌年の上昇率が2%に下がったとしても、価格が元に戻ったわけではない。前年よりさらに2%高くなっている。そこに利上げによる所得減少や借入負担の増加が重なれば、物価上昇率という数字が改善しても、家計の暮らし向きは悪化し得る。

生活必需品が高騰している人々に、もっと消費を減らせという。暖房費が払えない人々に、さらに支出を削れという。借入金の返済に苦しむ家計には金利負担を増やし、企業には投資や雇用を減らさせる。

そのような政策に国民がおとなしく従うと考える方が不自然ではないだろうか。

世界各地の食料暴動や生活費高騰に対する抗議活動は、国民生活が限界に近づいたとき、経済的な不満が政治的な抵抗へと発展することを示してきた。

暴力的な行為そのものを正当化する必要はない。しかし、暴動が発生したときに治安対策だけを議論し、その背景にある生活苦を放置するのであれば、根本的な問題は解決しない。

さらに問われるのが、誰の利益を優先するために、これほどの負担を国民に強いるのかという問題である。

多額の名目資産を保有する純債権者にとって、インフレは資産の実質価値を減らす負担となる。利上げによってインフレを抑え、金利収入も増やせるのであれば、それは歓迎すべき政策だろう。

一方、生活に余裕のない家計にとって、金利負担の増加や雇用の悪化は、食費や光熱費を支払えるかどうかという切実な問題になる。

資産家の実質資産価値を守るために、国民には食費を削らせ、暖房を我慢させ、医療まで諦めさせる。それでインフレ率が下がったとして、いったい何を守ったことになるのか。

もちろん、供給不足によるインフレが長期化すれば、経済全体に悪影響が及ぶ。だからこそ、食料やエネルギーの供給体制の強化、輸送網の確保、価格高騰の影響を受ける家計への支援など、問題の原因と国民生活の保護を直接対象とする政策が求められる。

ところが、供給を増やすことが難しいからといって、国民の購買力を削り、需要を供給量に合わせて縮小させることを優先するのであれば、政策の目的と手段が逆転している。

金融政策の目的は、インフレ率という数字を改善することだけではないはずだ。国民が十分な食事を取り、安心して暮らし、働き、生活を維持できることこそ、経済政策が目指すべき成果である。

2026年、世界各地で生活費高騰への怒りが噴出し、現実に暴動まで起きている。

それを目の前にして、なお国民の購買力を奪う利上げを強行するというのか。

守るべきものは資産家の資産価値なのか、それとも国民の生活なのか。

金融政策が国民生活を守るために存在するのであれば、国民の健康や雇用を犠牲にしてまで需要を押し下げる政策を、当然の選択肢として扱うべきではない。

繰り返される暴動は、生活必需品の高騰に対する国民の怒りを示すとともに、国民生活を犠牲にする経済政策が、社会そのものの安定を損なう危険を持つことを警告している。

物価安定のために国民生活を破壊し、その結果として社会秩序まで失うのであれば、それは一体誰のための政策なのか。

各国の政策当局は、この問いに正面から答える必要がある。

デマ連発の日経新聞、ついに怒られる

第一章 「これ、署名記事だよね?」片山財務相が日経記者を直接追及

2026年10月、日本経済新聞の記者が片山さつき財務相から、自ら執筆した記事について直接説明を求められるという出来事があった。政治家が記者の質問に答えるという通常の記者会見とは、立場が逆転した光景である。

発端となったのは、10月15日に公開された日経新聞の記事「G20閉幕、中国に批判された『悪い金利上昇』 日米欧が守勢に」だ。記事では、G20財務相・中央銀行総裁会議に先立つ水面下の協議で、中国が主要7カ国(G7)の金利上昇を批判し、日本側が反論したと報じられていた。

ところが、実際に会議に出席していた片山財務相は、この報道を正面から否定した。

事前協議をやってないので中国に批判されたようなことはまったくありませんので

さらに、記事を書いた記者に直接問いただした。

何を根拠におっしゃってるのかこの場で言ってくれます?

これ、署名記事だよね?何のことですか、これ?

このやり取りはANNのニュース映像でも確認できる。片山財務相が日経記者に記事の根拠を問いただす場面が収録されている。

映像資料:ANNニュース

www.youtube.com

片山財務相は、自身が閣僚級の会合にすべて参加していたことを説明し、記事に書かれたような場面はなかったと重ねて否定した。一方、日経記者は取材で確認した情報だと説明したものの、情報源は明かさなかった。

このやり取りは10月16日にJ-CASTニュースも取り上げた。同社が日経新聞に見解を求めたところ、広報室から返ってきた回答は次の一言だった。

取材に基づき報じております

出典:J-CASTニュース(2026年10月16日)

www.j-cast.com

日経の記事は、非公開の協議内容を取材によって描写したものである。これに対して片山財務相は、会合に出席した当事者として、そのような出来事はなかったと否定した。

非公開の協議をめぐる双方の説明が食い違っている以上、記事の真偽を判断するには具体的な裏付けが必要となる。しかし、日経が公に示した説明は「取材に基づいている」というものにとどまっている。

報道機関が政府の説明を疑い、根拠を求めることは当然である。同じように、政府の当事者が報道内容を否定し、記者に根拠を求めることにも正当な理由がある。取材源を秘匿することと、記事の正確性を説明する責任は別の問題だ。

そして今回の出来事を、単発の報道トラブルとして片付けることはできない。日経新聞はそのわずか1か月余り前にも、ベッセント米財務長官の発言をめぐって、日米の経済政策が対立しているかのような報道を展開していた。

しかも、その件では米財務省と日本政府の双方が公式に説明している内容と、報道によって作られた印象との間に大きな隔たりがあった。

今回、片山財務相が日経記者に突きつけた「何を根拠におっしゃってるのか」という問いは、9月から続く一連の報道に対しても向けられるべき問いである。

第二章 「リフレ政策をやめろ」日経が作り出した日米対立

2026年9月2日、日本経済新聞は「ベッセント米財務長官『リフレ政策やめるべきだ』と日本に伝達」という記事を掲載した。米国のベッセント財務長官が日本の経済政策に異議を唱え、政策転換を要求したかのような印象を与える見出しである。

確かに、ベッセント長官は9月1日の記者会見で、次のように発言している。

We've talked to the Japanese. I said they had a tremendous success in Abenomics. Now they should actually let that run and stop the reflation.

「我々は日本側と話をした。アベノミクスは大きな成功を収めたと伝えた。今はその成果を機能させ、リフレ政策を終えるべきだ」

出典:金融庁・片山財務相記者会見(2026年9月4日、記者が英語原文を提示)
https://www.fsa.go.jp/common/conference/minister/2026b/20260904-1.html

問題は、この発言の一部分だけを取り出しても、ベッセント長官の政策認識を正確に理解できないことである。ベッセント長官はリフレ政策を失敗と評価したのではない。むしろアベノミクスが大きな成功を収めたと明言し、その成果を生かすべきだと述べている。

さらに、この発言のわずか2日前、8月30日に米財務省が公表した植田日銀総裁との会談概要には、ベッセント長官の政策認識を理解するうえで決定的な文章がある。

The Secretary emphasized the importance of sound formulation and communication of monetary policy to anchor inflation expectations and avoid excess exchange rate volatility.

「長官は、インフレ期待を安定させ、為替相場の過度な変動を回避するため、金融政策の適切な策定と情報発信が重要であることを強調した」

出典:米財務省(2026年8月30日)
https://home.treasury.gov/news/press-releases/sb0619

ここで明示されている政策目標は「インフレ期待の安定」である。日本のリフレ政策は、長年のデフレによって定着したデフレ期待を払拭し、プラスのインフレ期待を形成することを目指してきた。その成果を維持することと、追加的なリフレ政策を終了することは矛盾しない。

つまり、ベッセント長官の発言は「リフレ政策は成功した。今後は追加的なリフレによってインフレ期待をさらに押し上げるのではなく、形成されたインフレ期待を安定させるべきだ」という、一貫した政策認識として理解できる。

同じ米財務省声明では、日米の緊密な協調の重要性を強調し、円の大幅な過小評価に対処する日本の市場対応と金融政策上の措置への強い支持も表明している。そこに日本の経済政策全体への否定や、一方的な政策転換要求は記されていない。

実際、9月4日の記者会見で片山財務相は、ベッセント長官から具体的な政策要求を受けたのかと繰り返し質問され、次のように回答している。

財務省同士でももう帰国してから話しておりますが、何か一方的な政策の要求みたいな話をしていないということでは、両省は一致しております。

出典:金融庁・片山財務相記者会見(2026年9月4日)
https://www.fsa.go.jp/common/conference/minister/2026b/20260904-1.html

米国側はアベノミクスの成功を評価し、インフレ期待の安定と日米協調を重視する。日本側も一方的な政策要求はなかったと説明している。

それにもかかわらず、「リフレ政策をやめろ」という一節ばかりが強調され、あたかもベッセント長官が高市政権の経済政策に反対しているかのような対立構図が広まった。

文脈を無視して発言の一部を切り出せば、引用そのものが正確でも、記事が伝える政策的な意味は歪められる。 アベノミクスの成功評価やインフレ期待の安定という政策目標を省略すれば、読者はベッセント長官がリフレ政策そのものを否定し、日本に政策転換を要求しているかのように受け取ってしまう。

そして、この対立構図を事実だと思い込んだ人々は、今度は当事者による公式説明の方を疑い始めることになる。

第三章 「歪曲しているのはお前だ」公式説明より思い込みを優先する人々

日経新聞が広めた日米対立の構図は、その後の記者会見にも持ち込まれた。2026年9月18日、片山財務相は記者会見で、日米協調による円買い介入や、ベッセント財務長官との経済政策をめぐる認識の共有について説明していた。

ところが、質疑応答で記者から次のような質問が飛び出した。

ベッセント財務長官は、リフレ政策をやめるべきだとおっしゃって、サナエノミクスに否定的だと思うんですが、何で発言が食い違っているのでしょうか。片山大臣、歪曲しているんじゃないですか。

出典:金融庁・片山財務相記者会見(2026年9月18日)
https://www.fsa.go.jp/common/conference/minister/2026b/20260918-1.html

この質問には明確な論理の飛躍がある。「リフレ政策をやめるべきだ」という発言は事実だが、「サナエノミクスに否定的」というのは記者自身の解釈である。その解釈を前提に、片山財務相の説明が食い違っていると決めつけ、最後には「歪曲しているんじゃないですか」とまで非難している。

歪曲しているのはどちらなのか。

片山財務相は「ベッセント財務長官は『タカイチノミクス』を非常に評価しています」と回答し、公開された発言にもその評価が示されていると説明した。米財務省の公式声明も、日米協調とインフレ期待の安定を重視している。記者はそれらの一次資料を踏まえて「否定的」と判断した根拠を示していない。

同じような認識は一般の読者にも見られる。はてなブックマークでは、drakendrickというユーザーが、日経報道を批判する意見に対して次のようにコメントしている。

リフレ信者ってほんと怖いね リフレ政策のネガ記事にブチ切れてるのはあなた🤣

出典:はてなブックマーク(2026年10月18日)

リフレ信者ってほんと怖いね リフレ政策のネガ記事にブチ切れてるのはあなた🤣 - drakendrick のブックマーク / はてなブックマーク

さらに、別のコメントではこう述べている。

効いてるな ベッセントが“stop the reflation”と言い、日経が「ベッセント米財務長官『リフレ政策やめるべきだ』と日本に伝達」と配信 捻じ曲げて解釈してデマ言ってんのはお前だぞ

出典:はてなブックマーク(2026年10月19日)

効いてるな ベッセントが“stop the reflation”と言い、日経が「ベッセント米財務長官『リフレ政策やめるべきだ』と日本に伝達」と配信 捻じ曲げて解釈してデマ言ってんのはお前だぞ - drakendrick のブックマーク / はてなブックマーク

この人物は、リフレ政策を支持しているか否かという思想的な対立に話をすり替え、さらにベッセント長官の発言と日経の見出しが一致していることをもって、報道が正しいと主張している。

しかし、批判されているのは「stop the reflation」という発言の存在ではない。その発言の文脈を無視して、米国が日本の経済政策に反対しているという物語を作り出したことである。

発言の一節を正確に引用できたからといって、その発言に付け加えた解釈まで正しくなるわけではない。ベッセント長官によるアベノミクスの成功評価も、インフレ期待を安定させるという政策目標も、日米協調を強調した公式声明も、この反論では一切検討されていない。

記者は自分の解釈と異なる片山財務相を「歪曲」と非難し、読者は報道の解釈を疑う人間を「デマ」と非難する。両者に共通するのは、一次資料との照合を欠いたまま、自分が信じる報道を判断基準にしていることだ。

こうして報道機関の作り出した認識が、記者の質問や読者の反応によって繰り返し再生産される。そして、その認識に疑問を呈する側が、逆に事実を歪めているかのように扱われてしまうのである。

第四章 「取材に基づいている」は免罪符ではない

そして話は、冒頭の10月15日付の日経記事に戻る。日経新聞が報じたG20前の「水面下の話し合い」について、片山財務相はそのような事前協議はなかったと否定し、署名記事を書いた記者に直接根拠を問いただした。

記者は取材で確認したと説明したものの、情報源は明かさなかった。さらにJ-CASTニュースが日経新聞に見解を求めたところ、広報室の回答は「取材に基づき報じております」というものだった。

出典:J-CASTニュース(2026年10月16日)
https://www.j-cast.com/2026/10/16518530.html?p=all

取材に基づいて記事を書くのは当然である。問題は、その取材内容が事実に合致しているかどうかだ。匿名の関係者から情報を得たというだけでは、記事の正確性が保証されるわけではない。

まして今回は、記事に登場する会議に出席していた財務相本人が、そのような場面はなかったと明確に否定している。非公開の協議について異なる証言が存在するのであれば、報道機関は自らの報道を裏付ける情報を示す必要がある。取材源の氏名を明かせないとしても、情報の正確性をどのように確認したのかという問題は残る。

今回の日経報道が事実に反していたかどうかについては、双方の主張が対立している。しかし、これまで見てきたベッセント財務長官の発言をめぐる報道と合わせると、日経新聞の報道姿勢には共通した問題が見えてくる。

9月には、ベッセント長官の「リフレ政策を終えるべきだ」という発言が強調され、アベノミクスの成功評価やインフレ期待の安定という政策目標が十分に伝えられなかった。その結果、米国が高市政権の経済政策に反対しているという解釈が広まり、9月18日の記者会見では、その解釈を前提として片山財務相を「歪曲しているんじゃないですか」と非難する質問まで飛び出した。

10月には、非公開の協議に関する報道が、今度は会議の当事者から直接否定された。

両者に共通するのは、報道機関が提示する情報や解釈と、当事者が公に説明している事実との食い違いである。そして、その食い違いを解消するための検証が不十分なまま、記事だけが独り歩きしていく。

報道機関には権力を監視する役割がある。しかし、その役割は報道機関自身が批判や検証を免れる理由にはならない。政治家の説明に根拠を求めるのであれば、自らの記事についても同じ基準で根拠を示すべきである。

今回の一連の報道で浮き彫りになったのは、一次資料を軽視し、自分たちが伝えたいストーリーに合わせて事実を切り貼りするという、マスコミの悪癖である。日米両政府が協調姿勢を公式に表明していても、対立というストーリーに都合のよい発言だけを取り出す。記事の内容を当事者から否定されても、匿名の取材源を盾にして具体的な検証を避ける。こうした報道姿勢は、そろそろ改めるべきではないか。

そして、読者の側にも責任がある。新聞に書かれているから正しい、記者が取材したと言っているから事実だと、無条件に信じる時代ではない。政府の公式声明や記者会見の全文など、誰でもアクセスできる一次資料は数多く存在する。報道に疑問を感じたなら、実際に何が発言されたのか、どのような文脈だったのか、自分で確認すればよい。

一部の発言を引用して「デマ言ってんのはお前だぞ」と他人を非難する前に、まず自分が信じている記事の内容をファクトチェックするべきだろう。

一次資料を軽視して都合のよい物語を作る報道機関と、その物語を無批判に受け入れて拡散する読者。この悪循環を断ち切るには、報道する側も受け取る側も、事実そのものに立ち返るしかない。

未成年のSNS規制に反対する理由は何か? AI社会という新たな選択肢

1. 世界で進む未成年のSNS規制

未成年者のSNS利用を法律で制限する動きが世界各国で広がっている。

オーストラリアでは2025年12月から16歳未満のSNSアカウント保有を制限する法律が施行された。同国のオンライン安全規制機関eSafety Commissionerは、次のように説明している。

"As of 10 December 2025, age-restricted social media platforms need to take reasonable steps"

「2025年12月10日以降、年齢制限対象のSNS事業者は合理的な措置を講じなければならない」

これは16歳未満の利用者がアカウントを作成・保有することを防ぐための措置であり、対象SNSのすべての閲覧を禁止するものではない。

出典:eSafety Commissioner, Social media age restrictions
https://www.esafety.gov.au/about-us/industry-regulation/social-media-age-restrictions

インドネシアでも2026年3月から、16歳未満による高リスクのデジタルサービスのアカウント利用を制限する措置が段階的に始まった。

出典:インドネシア通信デジタル省(2026年3月6日)
https://portal.komdigi.go.id/kanal-publik/berita-kini/10065

こうした規制が進む背景には、SNSへの依存、有害コンテンツへの接触、ネットいじめなどへの懸念がある。

なかでも見過ごせないのが、実際に発生した深刻ないじめ事件だ。

2021年、イギリスの14歳のミア・ジャニンさんが自ら命を絶った。英国司法府が公表した検視報告書によれば、ミアさんは学校の男子生徒からいじめを受けており、死亡直前にはSNSに投稿した動画に多数の敵意ある反応が寄せられていた。

"This video received a large number of hostile responses, which Mia found stressful."

「この動画には多数の敵意ある反応が寄せられ、ミアはそれをストレスに感じていた」

出典:英国司法府、ミア・ジャニン事件再発防止報告書(2024年2月22日)
https://www.judiciary.uk/prevention-of-future-death-reports/mia-janin-prevention-of-future-deaths-report/

2024年にはオーストラリアで12歳のシャーロット・オブライエンさんが、いじめに苦しんだ末に亡くなった。遺族はSNSの影響を訴え、首相に直接働きかけた。

オーストラリア公共放送ABCの検証記事によれば、アルバニージー首相は遺族との対話がSNS規制を決断する重要な要因になったと認めている。

出典:ABC News(2025年12月13日)
https://www.abc.net.au/news/2025-12-13/how-australia-developed-social-media-ban-under-16s/106137700

一方、SNSの一律規制には反対意見もある。オーストラリア議会調査局は2024年11月の法案解説で、次のように指摘した。

"There is limited evidence to suggest that a blanket ban to prohibit children from using social media is the most advantageous solution to addressing online harms."

「子供のSNS利用を一律に禁止することが、オンライン上の危害への対処として最も有利な解決策であることを示す証拠は限られている」

出典:Australian Parliamentary Library, Bills Digest No. 39, 2024–25
https://www.aph.gov.au/Parliamentary_Business/Bills_Legislation/bd/bd2425/25bd039

反対論では、子供がSNSを通じて得ている交流、相談、情報収集の機会を奪うことも懸念されている。

しかし、ここで問い直したいのは、そうした利益を得るために本当に人間同士のSNSが必要なのかということだ。

子供がオンラインで交流する相手は、不特定多数の人間でなければならないのだろうか。

2. SNSの危険性は人間同士の交流にある

SNSの危険性というと、自殺を美化する画像や暴力的な動画などの「有害コンテンツ」が注目されがちだ。しかし、実際のいじめ事件を見れば、もっと根本的な問題が浮かび上がってくる。それは、SNSを通じた人間同士の直接的なやり取りそのものが、深刻な被害を生んでいることだ。

オーストラリアのeSafety Commissionerによる調査では、ネットいじめを経験した子供の75%が、直近の被害について現実に知っている相手から攻撃されたと回答している。

加害者の年齢については、13~17歳が52%、12歳以下が38%だった。成人によるものは4%にとどまっている。

つまり、ネットいじめの中心にあるのは、見知らぬ大人や犯罪者による接触ではなく、現実の友人や同年代の人間関係なのである。

被害が発生する場所についても、興味深い結果が出ている。

"Children are typically targeted in group chats or direct messages"

「子供は主にグループチャットやダイレクトメッセージで標的にされている」

直近の被害について、39%がグループチャットで、27%が個人からのメッセージ、メール、通話などで発生したと回答している。

また、現実に知っている相手からネットいじめを受けた子供の36%は、現実世界でも同じ相手から同様の行為を受けていた。

出典:eSafety Commissioner, How common is cyberbullying among children in Australia?
https://www.esafety.gov.au/research/the-online-experiences-of-children-in-australia/snapshot-cyberbullying

SNSの問題は、いじめを時間的にも空間的にも拡大させることだ。学校での嫌がらせが帰宅後も続き、悪口や写真がグループ内で共有され、本人の知らないところで集団的な排除が進む。

eSafety Commissionerも次のように説明している。

"It can happen at any time and follow the targeted person to any place where they have a digital device."

「いじめはいつでも発生し、被害者がデジタル機器を持っている場所ならどこまでも追いかけてくる」

出典:eSafety Commissioner, Bullying online
https://www.esafety.gov.au/young-people/cyberbullying

こうした問題は、有害コンテンツの自動検出や削除だけでは解決しにくい。

例えば、クラスメート全員が参加するグループから特定の生徒だけを排除する行為は、それ自体が違法な投稿を伴うとは限らない。既読無視や仲間外れ、集団による冷笑なども、個々のメッセージだけで被害を判定することは難しい。

人間の行動を完全に管理することはできない。SNS事業者が監視を強化しても、加害者は別の言葉や方法で攻撃できる。学校や家庭が介入しても、閉じたグループ内で何が起きているかを把握することさえ難しい。

つまり、問題は単に不適切な投稿が存在することではなく、未成年者が他人の悪意や集団心理に直接さらされる仕組みそのものにある。

そこで考えたいのが、交流相手を人間からAIに置き換えるという選択肢だ。人間の悪意をなくすことは難しくても、AIの応答や行動には共通のルールを設定し、検査し、改善を加えることができる。

子供のオンライン交流を守るために、必ずしも人間のSNSを維持する必要はないのではないか。

3. 交流相手は人間でなければならないのか

未成年者のSNS規制に対しては、友人との交流や相談、社会参加の機会を奪うという反対意見がある。しかし、そこで前提とされている「交流相手は人間でなければならない」という考え方は、改めて検証する必要がある。

現在のAIは、質問に答えるだけの存在ではない。異なる性格や記憶、目的を持つAIエージェントが、自律的に会話し、協力する技術が登場している。

2023年、スタンフォード大学などの研究チームは、25人のAI住民が暮らす仮想の町「Smallville」を開発した。住民たちは日常生活を送り、互いに情報を交換し、パーティーを企画して参加するなど、集団としての行動を見せた。

論文では次のように説明されている。

"they form opinions, notice each other, and initiate conversations"

「彼らは意見を形成し、互いの存在に気づき、会話を始める」

出典:Park et al., Generative Agents: Interactive Simulacra of Human Behavior(2023年)
https://arxiv.org/abs/2304.03442

さらに2024年、Alteraの「Project Sid」では、Minecraft上で10体から1,000体以上のAIエージェントが活動する社会を実験した。

"autonomously developing specialized roles, adhering to and changing collective rules"

「自律的に専門的な役割を形成し、集団のルールに従い、またそれを変更する」

出典:Project Sid: Many-agent simulations toward AI civilization(2024年)
https://arxiv.org/abs/2411.00114

これらの研究は、AIが単なる相談相手ではなく、集団社会を構成する存在になり得ることを示している。子供が異なる価値観を持つAIと議論し、協力し、集団活動に参加する環境も技術的に考えられる。

しかも、その活動は仮想空間に限られない。

2026年7月、Google DeepMindは複数のロボットによる協働に対応した「Gemini Robotics ER 2」を発表した。

"We are also introducing multi-robot collaboration, enabling robots to work together in shared spaces"

「さらに複数ロボットの協働を導入し、同じ空間でロボット同士が共同作業できるようにする」

出典:Google, Gemini Robotics ER 2(2026年7月30日)
https://blog.google/innovation-and-ai/models-and-research/google-deepmind/gemini-robotics-er-2/

AIとの交流は、会話から集団活動へ、さらに現実世界での共同作業へと広がりつつある。

これらの実験は、未成年者向けAI社会の長期的な安全性や教育効果を証明したものではない。それでも、交流、議論、協力、共同作業といった機能を人間だけが提供できるという前提は、技術の進歩によって問い直されている。

さらに、人間の行動を変えることは難しくても、AIには行動上の制約を設定し、問題が起きればシステム全体を修正できるという利点がある。

未成年者に必要なのが安全な交流環境であるなら、不特定多数の人間と直接つながるSNSより、行動を管理できるAI社会を提供する方が合理的ではないだろうか。

4. 人間のSNSを守る理由を問い直す

未成年者のSNS規制をめぐる議論では、子供の交流機会を奪ってはならないという主張が繰り返されてきた。しかし、これまで見てきたように、オンラインでの交流と、人間同士のSNSを利用することは同義ではない。

学校や家庭、地域社会では、子供は引き続き人間と接することができる。既知の友人との連絡も、一般公開型SNSとは別の手段で確保できる。オンラインでの相談、議論、協力、共同作業についても、AIが担える範囲は急速に広がっている。

ここで改めて問うべきなのは、未成年者が不特定多数の人間と自由に接触できることに、どのような固有の利益があるのかという点だ。

人間との交流には温かみがある、社会性が身につく、他者への共感を学べるといった説明はよく聞かれる。しかし、それらの利益がAIとの交流では得られないことを示さなければ、人間のSNSを維持する理由としては十分ではない。

むしろ、安全性という観点では、人間の側に明確な問題がある。人間は相手を傷つける意図を持ち、集団で攻撃し、他人の秘密を暴露することができる。規則を設けても、その行動を完全に制御することは難しい。

一方、AIは運営者が行動方針を設定し、不適切な応答を検査・修正できる。AIにも誤った応答や心理的依存などの課題はあるが、それらはサービス設計と安全性評価の対象にできる。個々の人間の人格や行動を変えようとするのとは、対処の仕組みが根本的に異なる。

未成年者のSNS規制は、子供を社会から隔離する政策ではない。危険なオンライン環境へのアクセスを制限し、より安全な交流手段を整備する政策として考えることができる。

その選択肢の一つが、多数のAIエージェントとロボットによる交流環境だ。相談や学習だけでなく、意見の対立、合意形成、集団活動、現実世界での共同作業まで提供できれば、従来のSNSが担っていた役割の多くを置き換えられる。

そのようなAI社会が未成年者に与える長期的な影響については、今後の実証が必要になる。同じように、人間同士のSNSについても、安全性や発達への影響を検証する必要がある。

SNSの一律規制が最善であることを示す証拠が十分でないという指摘はある。だが、それは現在のSNSを使わせ続けることが最善であるという証拠にもならない。

重要なのは、人間のSNSを守ることではなく、子供にとって安全で有益なオンライン環境を実現することだ。

AIという新たな交流相手が登場した今、私たちは「人間との交流だから価値がある」という前提から離れ、実際の利益と危険を比較できるようになった。

未成年者を不特定多数の人間と接触させることに、危険を上回るどのような利益があるのか。

その問いに具体的な答えを示すことこそ、これからのSNS規制論議に必要なのではないだろうか。

「市場の声」は誰が作っているのか――期待形成と金融報道の権力

1. 金融報道は市場を動かし、その市場を再び報道する

金融報道は市場を客観的に観察するだけではない。報道そのものが投資家の判断を変え、市場価格に影響を与え、その変動を再び報道する。この自己参照的な構造は、金融経済学とジャーナリズム研究の双方で検討されてきた。

Thompson(2009)は、金融報道が市場の現実を描写するだけでなく、その現実を構成する「再帰性」を論じた。ニュージーランドの金融専門家への調査では、投資家が専門メディアに求めるのは経済指標だけでなく、他の投資家の見解や市場心理、噂などの情報だった。また、報道機関が金融市場の権威を社会に伝え、経済政策の正当化にも関与する構造を検討している。

Tetlock(2007)は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』の1984~1999年のコラムを定量分析した。悲観的な報道の後には株価が下落し、その後反転する傾向があり、取引量の増加も予測された。逆に株価下落も、その後の悲観的報道を予測していた。報道と市場が双方向に作用することを示す結果である。

Strauß(2019)は、米国の金融記者への調査から、記者が金融機関やアナリスト、通信社に依存し、業界内部の情報を繰り返し流通させている実態を明らかにした。先行する報道が後続記事の論点を方向づけ、異なる意見が入りにくくなる。調査規模には制約があり、市場への影響もニュースの性質によって異なる。

Shiller(2017)は、経済についての「物語」が広く伝播すると、消費や投資行動を変え、実際の経済変動を引き起こし得ると論じた。

これらを統合すると、「市場関係者から情報を得る→報道する→市場が反応する→その反応を再び報道する」という循環が見えてくる。

重要なのは、報道機関自身が市場形成に関与しながら、その市場の反応を独立した評価として引用できることである。さらに政策批判へ転用されれば、報道機関自身の影響力が見えなくなる。この最後の段階は研究を統合した考察であり、全過程が実証されたわけではない。

2. 「米国の圧力」は誰が作ったのか――ベッセント報道の実例

2026年9月、ベッセント米財務長官の発言をめぐり、「米国が高市政権にリフレ政策の終了と日銀の利上げを迫っている」という解釈が広がった。しかし、公開発言と報道内容には重要な隔たりがある。

ベッセント氏はG20会見で、アベノミクスのリフレ政策を成功と評価し、次はタカイチノミクスの段階だと述べた。一方、日本経済新聞は「リフレ政策やめるべきだ」と報道した。これは発言を日本の財政・金融政策への要求として読み替えるものだった。

時系列にも注目したい。高市首相は7月27日の会見で、すでに「インフレを目指すとかそういったことではなくて」と説明している。リフレを目的としない政策方針は、日本側が先に示していた。

米財務省の8月30日の発表は、円の著しい過小評価への対応として日本の市場・金融面での措置を支持したものだった。具体的な利上げ幅や時期を指定しておらず、為替介入と政策金利の変更も区別すべきである。

ところが9月7日、大和証券の末廣徹氏はBloomberg掲載の分析で、ベッセント氏の圧力が日銀の利上げ判断を後押しするとの見方が市場に広がっていると紹介した。

9月10日のBloomberg記事は、0.25ポイントの利上げが市場に織り込み済みだと説明したうえで、植田総裁には市場を失望させない強いメッセージが求められていると論じた。

さらに9月14日のBloomberg主催ウェビナーでも、ベッセント氏からの「外圧」によって日銀のタカ派転換観測が高まっているという説明が採用された。

つまり、本人発言への政策的解釈が「米国の圧力」として流通し、金融市場の予想として紹介され、今度は日銀への政策要求に結び付けられている。

「市場が利上げを予想している」という情報が、「日銀はその期待に応えるべきだ」という主張へ変わる。

実際の相場変動に対する報道の寄与は未検証だが、報道上の解釈が市場の期待という権威をまとい、政策論争に再利用される過程は、これらの具体的な記事から確認できる。

3. 期待形成と政策決定――中央銀行の言葉を誰が伝えるのか

ノア・スミスは2026年のノーベル経済学賞について、ニューケインジアン・マクロ経済学の功績を高く評価した。

米国が深刻な不況を伴わずにインフレを沈静化できた理由として、FRBがインフレ抑制のために必要な措置を取ると企業が認識し、値上げをやめたという仮説を紹介している。

ここで重要なのは、「企業が認識した」という部分である。

企業は何を通じてFRBの決意を知ったのだろうか。すべての経営者がFRBの声明や議事録を直接読み、政策を独自に評価しているわけではない。新聞、テレビ、通信社、金融情報サービスなどを通じて認識を形成することも多い。

しかもマスコミは情報を機械的に伝えるだけではない。何をニュースにするかを選び、見出しを付け、専門家の解説を加え、ときには政策当局の発言に独自の意味を与える。

その結果、同じ中央銀行の発言でも、「インフレ抑制への強い決意」と報じるか、「景気後退への懸念」と報じるかによって、受け手の印象は変わり得る。

ニューケインジアンの枠組みでは、将来の物価や金利に対する期待が、現在の価格設定や投資判断に影響する。ならば、その期待を形成する情報環境も経済分析の対象となるはずだ。

さらに金融市場の期待は、中央銀行自身の判断材料にもなる。政策当局が市場の織り込みや反応を参照するなら、報道によって形成された期待が政策判断へ間接的に影響する経路も考えられる。

FRBへの信認が企業の行動を変えたという説明を採用するなら、信認がどのように伝わり、形成されたのかも問わなければならない。

期待が経済を動かすというなら、その期待を形成するマスコミの影響力も無視できないのである。

4. 日本の利上げ報道――「織り込み」が政策要求に変わるとき

日本の金融報道では、日銀が政策を正式に決定する前から利上げ観測が流れ、市場参加者がそれを材料に取引する。

2024年7月には、日銀の金融政策決定会合に先立って追加利上げの可能性が報じられた。7月31日、日銀は実際に政策金利を0.25%程度へ引き上げた。

ここで重要なのは、報道機関が市場の期待を単に観察しているのではなく、その形成にも関与していることである。

大手経済紙や通信社が「利上げを検討」「関係者によると追加利上げの可能性」と報じれば、市場参加者は政策変更の確率を見直す。報道の真偽を確信していなくても、他の投資家が反応すると予想すれば取引する。

その結果、「市場は利上げを織り込んでいる」という状況が生じる。

しかし、「市場が利上げを予想している」ことと「市場が利上げを求めている」ことは、まったく異なる。

さらに、利上げ後の為替変動についても問題がある。

円高なら「利上げの効果」、横ばいなら「織り込み済み」、円安なら「利上げが不十分」と説明することは、それぞれ経済分析として成立し得る。

しかし、結果に応じて説明を変えながら、結論だけが常に「追加利上げが必要」なら、それは政策効果の検証ではない。

そもそも為替相場は日米の金利差だけで決まるものではない。景気見通し、資本移動、リスク選好、為替介入への期待など、複数の要因が作用する。

利上げ後に円安が進んだからといって、直ちに利上げ不足とは言えない。

報道による期待形成を考慮せず、市場の織り込みを政策当局への要求として扱うことは、報道機関自身の影響を見えなくする。

市場価格は取引の結果であって、金融政策への賛否を問う投票ではない。

5. 結論――「市場の声」は誰が作り、誰が利用しているのか

金融報道は市場を観察するだけの存在ではない。情報を選び、解釈し、流通させることによって、市場参加者の期待と行動に影響を与える主体でもある。

学術研究は、報道と市場の双方向の作用や、金融業界内部での情報循環を示している。

ベッセント報道では、本人の発言に政策的解釈が加えられ、それが「米国の圧力」「市場の期待」として語られ、日銀への政策要求に転換される具体例を確認した。

期待形成の理論に従えば、こうした情報の伝達や解釈は、経済主体の行動に影響する重要な要素となる。

ここに金融報道の権力構造がある。

報道機関は市場の観察者であると同時に、期待形成に関与する当事者でもある。それにもかかわらず、自らが影響を与えた可能性のある市場の反応を、外部の客観的な審判として利用できてしまう。

さらに、市場参加者が利上げを予想しているという事実を、利上げが望ましいという政策評価に読み替えれば、記者自身の判断を「市場の声」という権威によって正当化できる。

問題は、報道機関が意図的に市場を操作しているかどうかだけではない。意図の有無にかかわらず、報道が市場の期待を形成し、その期待を再び報道するという構造そのものにある。

金融報道の客観性を検証するには、何が報じられたかだけでなく、その情報がどこから来て、誰の解釈が加わり、市場でどう利用され、政策論争にどう戻ってきたのかを追う必要がある。

そして、経済政策を評価する際には、市場の予想、市場参加者の利益、市場の反応、政策の社会的な妥当性を混同してはならない。

問うべきなのは「市場は何を期待しているか」だけではない。「誰がその期待を作り、その結果を誰が利用しているのか」である。


参考文献・資料

学術研究

経済政策・報道資料

ニューケインジアンは本当に勝利したのか――著名経済学者たちの異なる評価

1. ノーベル経済学賞をめぐる対照的な評価

2026年のノーベル経済学賞は、ロバート・ホールとマイケル・ウッドフォードに授与された。二人は、現代のマクロ経済学、とりわけニューケインジアン理論の発展に大きく貢献した経済学者である。

今回の受賞について、米国の経済評論家ノア・スミスは、ニューケインジアンの功績を高く評価している。

日本語訳:「やっとかよ!ニューケインジアンマクロ経済学にノーベル賞」(経済学101) econ101.jp

スミスは今回の受賞を遅すぎたほどだと歓迎し、ニューケインジアンが現代マクロ経済学に果たした役割を高く評価している。

特に注目したいのは、2022~2023年の米国で、大幅な失業増加を伴わずにインフレが沈静化したことについて、ニューケインジアンの「大勝利らしく見える」と評価している点だ。

ところが、2026年10月14日、ブラジルのニュースサイトUOLには、対照的な評価が掲載された。

経済評論家ジョゼ・パウロ・クプファーによる記事のタイトルは、次のようなものだった。

Nobel de Economia premia teorias que já não explicam tudo

「ノーベル経済学賞は、もはやすべてを説明できない理論を表彰した」

https://economia.uol.com.br/colunas/jose-paulo-kupfer/2026/10/14/nobel-de-economia-de-2026-vai-para-teorias-que-ja-estao-em-declinio.htm

クプファーは、ニューケインジアン系のDSGEモデルが2008年の金融危機を予測できなかったことを指摘し、その理論的前提や経済政策への応用が批判されていると紹介する。

そして、批判的な経済学者として、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ、ポール・クルーグマン、ポール・ローマー、元IMFチーフエコノミストのオリヴィエ・ブランシャールらを挙げている。

もっとも、彼らが批判しているのは必ずしも同じ対象ではない。ニューケインジアンの基本的な考え方を問題視する論者もいれば、標準的なDSGEモデルの欠陥を指摘し、改良を求める論者もいる。

では、これらの経済学者は具体的に何を批判しているのだろうか。

ニューケインジアンの説明力が試された二つの時期、2008~2009年の金融危機と、2022~2023年のインフレに焦点を当て、各論者の評価を比較していく。

2. 2008年の金融危機――利下げの限界

2008年のリーマン・ショック後、FRBは政策金利を急速に引き下げ、同年12月には0~0.25%とした。

しかし、金利をほぼゼロまで下げても、経済はすぐには回復しなかった。金融機関の信用収縮、企業の投資減少、失業の増加が続き、世界経済は深刻な不況に陥った。

この事態を、経済学者たちはどう評価したのだろうか。

ノア・スミス――危機をきっかけに理論が発展した

ノア・スミスは2026年の論考で、2008~2009年の大不況について、金利をゼロまで引き下げても経済が正常化せず、別の政策が必要になったと説明している。

スミスは、その対応策として、フォワードガイダンス、量的緩和、財政刺激を紹介している。

フォワードガイダンスは将来の低金利維持を約束して現在の支出を促す政策、量的緩和は中央銀行による長期国債などの購入、財政刺激は政府支出によって需要を直接増やす政策である。

スミスは、ニューケインジアンがこれらの政策を理論的に説明するようになったことを評価している。

特に財政刺激については、従来のニューケインジアンが軽視していたケインズの考え方を取り戻したと説明している。

つまり、2008年の危機は理論を発展させる契機になった、という評価である。

クルーグマン――中央銀行への過信があった

ポール・クルーグマンは2009年9月、『How Did Economists Get It So Wrong?』で、当時の主流派経済学を厳しく批判した。

Neither side was prepared to cope with an economy that went off the rails despite the Fed’s best efforts.

「どちらの立場も、FRBが最大限努力してなお経済が制御不能になる事態には対応する準備ができていなかった。」

https://emeritus.er.ethz.ch/media/inspirin_articles/how_economists_wrong.html

クルーグマンが問題視したのは、金融市場が大きく失敗する可能性を経済学者たちが過小評価し、金融政策によって経済を安定させられるという見方に依存していたことだった。

現実には、FRBが金利を下げても金融危機は収束せず、深刻な不況が続いた。

市場の不安定性そのものを十分に理解していなかった、という批判である。

スティグリッツ――金融危機を説明できるモデルではなかった

ジョセフ・スティグリッツは2018年の論文『Where Modern Macroeconomics Went Wrong』で、さらに根本的な問題を指摘している。

Inadequate modelling of the financial sector meant they were ill-suited for predicting or responding to a financial crisis.

「金融部門のモデル化が不十分だったため、金融危機の予測にも対応にも適していなかった。」

https://academic.oup.com/oxrep/article/34/1-2/70/4781816

従来の標準的なDSGEモデルでは、経済全体を代表的な家計や企業の行動で表現することが多かった。

しかし、現実の金融危機では、誰が借金を抱え、誰が返済不能になり、銀行がなぜ融資を止めるのかが重要になる。

銀行が巨額の損失を抱えて融資を縮小している場合、政策金利を引き下げても企業への貸出が回復するとは限らない。

金利が低くても、そもそも融資を受けられなければ、企業は設備投資を増やせない。

スティグリッツは、こうした負債、破産、情報の非対称性を十分に扱えないモデルでは、金融危機を理解し、適切な政策対応を考えることが難しいと批判している。

ブランシャール――モデルの欠陥を認め、改良を求める

元IMFチーフエコノミストのオリヴィエ・ブランシャールも、2018年の論文『On the Future of Macroeconomic Models』で、金融危機以前のDSGEモデルの問題を認めている。

current DSGE models are flawed, but they contain the right foundations and must be improved rather than discarded.

「現在のDSGEモデルには欠陥があるが、適切な基礎を備えており、捨て去るのではなく改良すべきである。」

https://academic.oup.com/oxrep/article-abstract/34/1-2/43/4781808

ブランシャールは、既存のモデルが金融危機で十分に機能しなかったことを認めつつ、基礎理論をすべて否定する必要はないと考えている。

また、経済予測、政策分析、基礎研究など、目的によって異なるモデルを使い分けるべきだと提案した。

2008年の金融危機は何を示したのか

経済学者 評価
ノア・スミス 危機を契機に、非伝統的金融政策や財政政策を理論に取り込んだことを評価
クルーグマン 金融市場の安定性と中央銀行の対応能力への過信を批判
スティグリッツ 金融危機を引き起こす仕組みが標準的モデルに十分組み込まれていなかったと批判
ブランシャール モデルの欠陥を認め、改良と使い分けを提案

いずれの評価からも、政策金利を下げるだけでは2008年の金融危機に十分対応できなかったことが分かる。

ニューケインジアンが危機後に理論を拡張したことは確かだが、それは金利政策だけで危機に対応できたという意味ではない。

3. 2022~2023年のインフレ――利上げの成果なのか

2008年の金融危機では、金利を引き下げても景気が十分に回復しなかった。ところが、2022~2023年の米国では、反対方向の金利政策をめぐって予想外の事態が起きた。

FRBは急激なインフレに対応するため、2022年3月から大幅な利上げを実施した。政策金利は2023年7月に5.25~5.50%に達したが、米国経済は深刻な景気後退に陥ることなく、インフレ率は大幅に低下した。

インフレを抑えるには需要を減らし、大幅な失業増加を受け入れなければならないという予測は、少なくとも2023年末までの現実とは一致しなかった。

経済学者たちは、この現象をどう説明していたのだろうか。

ノア・スミス――インフレ沈静化を説明する四つの仮説

ノア・スミスは2023年12月20日、『How did the U.S. achieve a soft landing?』で、大幅な失業増加なしにインフレが沈静化した理由を検討している。

https://www.noahpinion.blog/p/how-did-the-us-achieve-a-soft-landing

スミスが取り上げたのは、次の四つの説明である。

仮説 主な説明
一時的な供給ショック 原材料高や供給網の混乱が収まり、インフレ率が低下した
実物的景気循環理論(RBC) 生産活動は主に供給側で決まり、金融・財政政策が実体経済に与える影響は小さい
需要と供給の複合要因 パンデミック期の需要拡大が落ち着き、供給制約も緩和した
期待形成 FRBのインフレ抑制姿勢を人々が信じ、企業の価格設定が変化した

特に需要と供給の複合要因については、次のように評価している。

So this theory is very good at explaining what happened over the last three years.

「この理論は、過去3年間に起きたことを非常によく説明している。」

スミスによれば、パンデミック期に需要が増加し、その後、需要刺激の縮小と供給制約の緩和が重なったことで、インフレ率が低下しても経済成長を維持できた可能性がある。

一方、FRBへの信認がインフレ期待を変えた可能性についても検討しているが、期待の変化がインフレ低下の原因なのか、それともインフレ率の低下を反映した結果なのかは判別が難しいと認めている。

2023年当時のスミスは、特定の理論の勝利を宣言していたわけではなく、複数の仮説を比較していたのである。

スティグリッツ――供給制約の緩和を重視

ジョセフ・スティグリッツは2023年11月、『A Victory Lap for the Transitory Inflation Team』を発表した。

https://www.project-syndicate.org/commentary/transitory-us-inflation-reflected-supply-disruptions-and-sectoral-shifts-not-aggregate-demand-by-joseph-e-stiglitz-2023-11

スティグリッツは、パンデミック期の物価上昇の主因を、供給網の混乱や需要構成の急激な変化に求めた。

そして、インフレ沈静化は供給側の混乱が解消された結果だと評価し、中央銀行の利上げの貢献に懐疑的な立場を示した。

利上げでは商品の不足や物流の混乱を解消できない。したがって、インフレ率が下がったという結果を、直ちに金融政策の成果として評価することには反対する立場である。

クルーグマン――大量の失業が必要という予測は外れた

ポール・クルーグマンは2023年8月、『How (Many) Economists Missed the Big Disinflation』で、インフレ抑制には長期間の高失業率が必要だと予測していた経済学者たちを批判した。

https://www.nytimes.com/2023/08/14/opinion/columnists/economists-disinflation-interest-rates.html

クルーグマンは、自身も2021~2022年のインフレ急騰を予測できなかったと認めている。

そのうえで、今度はインフレ沈静化に伴う大量の失業を予測していた側にも、予測の誤りを見直すよう求めた。

FRBの利上げ後も経済は成長を続け、失業率は大幅に上昇しなかった。従来のインフレ抑制の想定とは異なる結果だったのである。

ローマー――理論より現実のデータを重視すべき

ポール・ローマーは2023年10月、『It Would be Crazy to Raise Rates』で、追加利上げに強く反対した。

https://paulromer.net/crazy-to-raise-rates-now/

It would be crazy to raise rates.

「ここで利上げするなど正気の沙汰ではない。」

ローマーが重視したのは、インフレ率が大幅に低下しているにもかかわらず、雇用やGDP成長率に目立った悪化が起きていなかったという事実だった。

さらに、現実に適合しない教科書的な分析に立ち戻ることを批判している。

既存の理論から追加利上げが必要だと判断するのではなく、実際の経済指標に基づいて政策を判断すべきだという主張である。

ブランシャール――インフレの原因をデータから分解する

オリヴィエ・ブランシャールは、元FRB議長ベン・バーナンキとともに、2023年6月に『What Caused the US Pandemic-Era Inflation?』を発表した。

https://www.nber.org/papers/w31417

この研究では、2021年に始まったインフレ急騰の大部分は、商品価格の高騰や供給制約、需要構成の変化などによる価格ショックで説明できると分析している。

一方、労働市場の逼迫は、当初のインフレ急騰の主因ではなかったものの、賃金上昇を通じてインフレを持続させる要因になり得ると指摘した。

ブランシャールらは、供給ショックを重視しながらも、労働市場や金融政策の影響を排除していない。

特徴的なのは、インフレの原因を最初から一つに決めるのではなく、実際のデータを用いて要因を分解していることである。

2023年時点の評価を比較する

経済学者 評価
ノア・スミス 供給ショック、需給の複合要因、期待形成など複数の説明を比較
スティグリッツ 供給制約の緩和を重視し、利上げの貢献に懐疑的
クルーグマン インフレ抑制には大量の失業が必要という予測を批判
ローマー インフレ低下と雇用維持を重視し、追加利上げに反対
ブランシャール 初期のインフレ急騰は主に価格・供給ショック。労働市場の影響も分析

2023年当時の議論を見ると、経済学者たちは同じインフレ沈静化という現象を前にしながら、異なる要因を重視していたことが分かる。

特に注目したいのは、ノア・スミス自身も需要と供給の複合要因による説明を高く評価し、期待形成による説明については因果関係の判定が難しいと認めていた点だ。

では、その後の研究によって、インフレ沈静化の仕組みはどこまで明らかになったのだろうか。

4. なぜ米国は大不況なしにインフレを沈静化できたのか

2023年以降、インフレの発生と沈静化について、企業の価格設定行動や各国の物価データを用いた研究が進められた。

そこから見えてくるのは、金利政策だけでは説明できない、供給と価格転嫁の変化である。

企業はなぜ値上げしたのか

2023年、イザベラ・ウェーバーとエヴァン・ワズナーは『Sellers’ Inflation, Profits and Conflict: Why Can Large Firms Hike Prices in an Emergency?』で、供給ショックから企業の値上げが広がる仕組みを分析した。

原油や原材料、物流費が高騰すると、企業は増加したコストを販売価格に転嫁する。その値上げが別の企業の仕入れコストを押し上げ、さらに次の値上げにつながる。

また、供給不足のもとでは企業の価格決定力が強まり、利益率を拡大する企業も現れる。

ウェーバーらは、上流産業で発生した価格上昇が下流産業へ波及し、実質賃金を回復しようとする労働者の賃金要求にもつながる過程を説明している。

https://doi.org/10.4337/roke.2023.02.05

この研究の特徴は、インフレの広がりを、実際のコストショック、企業の市場支配力、価格設定行動によって説明していることだ。

なぜ値上げが収まったのか

コストプッシュによる値上げは、同じコスト上昇が繰り返されなければ、際限なく続くわけではない。

例えば、原材料費が100から130に上昇し、企業がその増加分を販売価格に転嫁したとする。その後、原材料費が130で安定すれば、同じ理由で値上げを続ける必要はなくなる。

販売価格が元に戻らなくても、値上げが止まればインフレ率は低下する。

さらに、物流の混乱が収まり、部品や商品の供給が回復すれば、企業間の競争も働きやすくなる。消費者が値上げを受け入れなければ、企業は価格を据え置くか、利益率を調整することになる。

こうしたコスト上昇の鈍化、価格転嫁の進展、供給制約の緩和によって、インフレ率が低下する基本的な仕組みを説明できる。

これは、需要を大幅に減らし、大量の失業を発生させることを前提としない説明である。

ブランシャールとバーナンキの実証研究

2024年5月、オリヴィエ・ブランシャールとベン・バーナンキは『An Analysis of Pandemic-Era Inflation in 11 Economies』を公表した。

この研究は、10の中央銀行との共同研究によって、米国を含む11の経済圏でパンデミック後のインフレを分析したものだ。

その結論は、インフレ急騰の主因が供給の混乱と食料・エネルギー価格の上昇だったというものだった。

そして、こうした供給ショックの影響が弱まるにつれて、インフレ率も低下していったと分析している。

一方、労働市場の逼迫や名目賃金の上昇は、その後のインフレを持続させる要因として相対的に重要になったと指摘する。

また、1970年代と違って供給ショックによるインフレが長期化しなかった理由の一つとして、中央銀行の物価目標への信認も挙げている。

つまり、供給ショックの解消を重視しながら、金融政策や期待形成の役割も分析しているのである。

https://www.nber.org/papers/w32532

FRB自身も供給回復の重要性を認めていた

2024年8月23日、パウエルFRB議長はジャクソンホール講演で、パンデミックによる需給の混乱やエネルギー・商品市場へのショックについて、次のように述べている。

The unwinding of these factors took much longer than expected but ultimately played a large role in the subsequent disinflation.

「これらの要因の解消には予想以上に時間がかかったが、最終的にはその後のインフレ沈静化に大きな役割を果たした。」

https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/powell20240823a.htm

パウエルは同じ講演で、金融引き締めによる需要の緩和と供給能力の回復が組み合わさり、経済成長を維持しながらインフレ圧力を弱めることができたと説明している。

また、労働市場では大量の解雇ではなく、主に求人件数の減少によって需給の逼迫が緩和したことも指摘している。

FRB自身の説明でも、インフレ沈静化は単に利上げだけによって実現したものではない。

実体経済の変化から説明できること

ここまでの研究を整理すると、米国のインフレ沈静化には具体的な経済的要因があったことが分かる。

まず、供給網の混乱や原材料価格の高騰が企業のコストを押し上げ、価格転嫁を通じてインフレが広がった。

その後、供給制約が緩和され、コスト上昇が鈍化し、企業の価格転嫁が進んだことで、値上げ圧力は弱まった。

さらに、供給能力と労働力の回復によって、需要を大幅に減らさなくても物価上昇圧力を弱められた。

こうした変化に金融政策による需要の緩和や期待の安定も加わり、米国では深刻な景気後退を伴わずにインフレ率が低下したと考えられる。

つまり、インフレ沈静化と経済成長の両立は、供給制約の緩和、コスト上昇の鈍化、企業の価格転嫁の進展、供給能力の回復といった実体経済の変化を中心に、需要や期待の動きを組み合わせることで説明できるのである。

5. ニューケインジアンは本当に勝利したのか

ここで、ノア・スミスによる2026年の評価に戻ろう。

スミスは、米国で深刻な景気後退を伴わずにインフレ率が低下したことについて、次のように述べている。

もちろん,正確なところ,どうしてこうなったのかははっきりわからない.ただ,ボブ・ホールとマイク・ウッドフォードが開拓したニューケインジアン・マクロの大勝利らしく見えるのは間違いない.

そして、最も有望な説明として、次の仮説を提示した。

この「無痛インフレ沈静化」(”immaculate disinflation”) が起きた理由としていちばん見込みがあるのは,「FRB はインフレを沈静化するために採れる手はなんでもやる」と企業が認識するやいなや,企業は値上げをやめ,インフレはあっさり鎮まっていった,という説だ.

さらに、こう述べている。

必要だったのは,FRB による明快なコミットメントと将来を見据えた予想形成だけだった

日本語訳:「やっとかよ!ニューケインジアンマクロ経済学にノーベル賞」(経済学101)

https://econ101.jp/noah-smith_2026nobel-prize/

この説明の核心は、FRBの政策姿勢を企業が信じたことによって、実際に大規模な需要抑制や失業を発生させなくても値上げを止められた、というものだ。

もしそうであれば、ニューケインジアンが重視する期待形成の仕組みが、現実のインフレ沈静化に決定的な役割を果たしたことになる。

しかし、企業が値上げをやめた理由は、FRBへの信認だけでは説明されていない。

ウェーバーらが分析した企業の価格設定行動、スティグリッツが重視した供給制約の緩和、ブランシャールとバーナンキによる要因分解、そしてパウエル議長自身の説明は、供給側の正常化がインフレ沈静化に大きく寄与したことを示している。

企業がFRBの政策姿勢を認識したことで値上げをやめたというのであれば、企業のインフレ期待がいつ、どれほど変わり、その変化が実際の販売価格にどう反映されたのかを示す必要がある。

長期インフレ期待が安定していたことは、中央銀行への信認が維持されていたという説明とは整合する。しかし、それだけで企業がFRBを信用したために値上げをやめたという因果関係まで確認できるわけではない。

また、2023年当時のノア・スミス自身が、供給と需要の複合要因による説明を高く評価していたことも重要だ。

2024年には供給ショックの解消が大きな役割を果たしたとする研究が公表され、FRB議長もその寄与を認めていた。それにもかかわらず、2026年には期待形成を最も有望な説明として「大勝利」と評価しているのである。

2008年の金融危機では、政策金利をゼロ近辺まで引き下げても深刻な不況を解消できず、金融市場の信用収縮など、金利操作だけでは対応できない問題が明らかになった。

2022~2023年のインフレでは、大幅な利上げが行われたものの、インフレ沈静化には供給制約の緩和や企業の価格転嫁の進展が大きく寄与していた。

スティグリッツは供給制約に対処できない利上げを批判し、クルーグマンは大量の失業が必要だという予測の誤りを指摘した。ローマーも、インフレが低下している現実を重視して追加利上げに反対した。

この二つの事例に共通するのは、金利政策だけでは現実の経済問題を十分に解決・説明できないということだ。

ニューケインジアンが現代マクロ経済学に果たした学術的貢献は大きい。しかし、金利政策の効果を過大評価し、FRBへの信認や人々の期待形成をインフレ沈静化の中心的な原因とするのであれば、その寄与を実証的に示す必要がある。

金利政策と期待形成を重視するあまり、供給制約や企業の価格設定といった実体経済の変化を十分に評価しないまま、ニューケインジアンの「大勝利」と結論づけるのは早計ではないだろうか。


参考資料:記事に登場する人物一覧

人物 主な肩書き・経歴 本記事との関係
ロバート・ホール(Robert E. Hall) スタンフォード大学教授。2026年ノーベル経済学賞受賞者 今回の受賞者。現代マクロ経済学の理論的発展に貢献
マイケル・ウッドフォード(Michael Woodford) コロンビア大学教授。2026年ノーベル経済学賞受賞者 今回の受賞者。金融政策と期待形成の理論を発展
ノア・スミス(Noah Smith) 米国の経済評論家。元ストーニーブルック大学助教 ニューケインジアンの功績を高く評価
ジョゼ・パウロ・クプファー(José Paulo Kupfer) ブラジルの経済ジャーナリスト・コラムニスト ニューケインジアン理論への批判を紹介
ジョセフ・スティグリッツ(Joseph E. Stiglitz) 2001年ノーベル経済学賞受賞者。元世界銀行チーフエコノミスト 金融危機へのモデルの対応能力と、利上げ中心のインフレ対策を批判
ポール・クルーグマン(Paul Krugman) 2008年ノーベル経済学賞受賞者。元プリンストン大学教授 金融市場への過信と、大幅な失業を必要とするインフレ予測を批判
ポール・ローマー(Paul Romer) 2018年ノーベル経済学賞受賞者。元世界銀行チーフエコノミスト マクロモデルの実証的根拠を問題視し、2023年の追加利上げに反対
オリヴィエ・ブランシャール(Olivier Blanchard) MIT名誉教授。元IMFチーフエコノミスト DSGEモデルの改良を提唱し、インフレ要因を実証分析
イザベラ・ウェーバー(Isabella M. Weber) マサチューセッツ大学アマースト校准教授 供給ショックと企業の価格転嫁によるインフレを研究
エヴァン・ワズナー(Evan Wasner) 経済学研究者 ウェーバーと共同で「売り手インフレ論」を研究
ベン・バーナンキ(Ben S. Bernanke) 2022年ノーベル経済学賞受賞者。元FRB議長 ブランシャールと共同でパンデミック期のインフレを分析
ジェローム・パウエル(Jerome H. Powell) 2018年にFRB議長就任 2024年の講演で、供給回復と需要の緩和によるインフレ沈静化を説明

※肩書きには、発言・研究当時の役職と主要な経歴を含む。

今年のノーベル経済学賞でも、今年の経済は説明できない

1. 今年のノーベル経済学賞は何を評価したのか

2026年のノーベル経済学賞は、ロバート・ホールとマイケル・ウッドフォードの2人に授与された。授賞理由は「マクロ経済安定化政策のミクロ経済学的基礎を築いた功績」である。

ノーベル賞委員会は、2人がニューケインジアン・マクロ経済学の基礎を築いたことを評価している。

They laid the foundation of the New Keynesian paradigm

彼らはニューケインジアンという理論体系の基礎を築いた。

出典:スウェーデン王立科学アカデミー「Microfoundations deliver macro insights」

https://www.kva.se/en/prizes/prize-in-economic-sciences/microfoundations-deliver-macro-insights/

この理論が生まれた背景には、1970年代のスタグフレーションがある。それまでのケインズ経済学では、失業率とインフレ率の間に比較的安定した関係があると考えられていた。しかし、石油危機では失業とインフレが同時に進行し、従来のモデルでは十分に説明できなくなった。

ホールは将来所得への期待が家計の消費行動を左右することを研究し、ウッドフォードは価格の硬直性や将来期待を組み込んだ金融政策モデルを体系化した。

これによって、中央銀行が金利を変更した場合に、消費・生産・物価がどのように反応するかを理論的に分析できるようになった。現在も各国の中央銀行や財務省で、この流れをくむモデルが活用されている。

一方、ノーベル賞委員会自身も次のように述べている。

New Keynesianism was the start of a flourishing line of economic research, not the final word.

ニューケインジアンは活発な経済研究の出発点であって、最終的な答えではなかった。

出典:同上

https://www.kva.se/en/prizes/prize-in-economic-sciences/microfoundations-deliver-macro-insights/

つまり今回評価されたのは、現代の金融政策の基礎となる理論を構築した歴史的な功績である。

では、その理論が前提とした経済構造は、現在も変わっていないのだろうか。

2. しかし、経済の構造は大きく変わった

ニューケインジアンが発展した1970年代以降、世界の金融市場は大きく姿を変えた。

その転換点の一つが、1971年のニクソン・ショックである。米国はドルと金の交換を停止し、1973年にはブレトンウッズ体制が崩壊した。国際通貨制度における金との交換制約がなくなり、その後の金融自由化や金融技術の発達とともに、金融取引は拡大していった。

出典:米連邦準備制度(FRB)歴史解説

https://www.federalreservehistory.org/essays/gold-convertibility-ends

国際決済銀行(BIS)は2012年の研究で、金融サイクルの変化について次のように指摘している。

the length and amplitude of the financial cycle have increased markedly since the mid-1980s.

金融サイクルの長さと振幅は1980年代半ば以降、著しく拡大している。

出典:BIS Working Papers No.380(2012)

https://www.bis.org/publ/work380.pdf

同研究は、その背景として金融自由化や金融政策の枠組みの変化を挙げている。また、金融サイクルは通常の景気循環より長く、金融危機とも密接に関連しているという。

現在の金融市場の特徴をさらに端的に示すのが、BISの2025年外国為替市場調査である。

it accounted for 5% of global turnover in 2025

2025年には世界の外国為替取引高の5%を占めた。

出典:BIS「OTC foreign exchange turnover in April 2025」

https://www.bis.org/statistics/rpfx25_fx.pdf

ここでいう5%とは、輸出入企業などの非金融顧客との取引割合である。2019年には7%、2022年には6%だったものが、さらに低下した。

一方、報告対象ディーラー間の取引が約46%、その他の金融機関との取引が約50%を占めている。

金融機関は実需取引の仲介も行うため、この数字をそのまま実需全体の割合と解釈することはできない。しかし、外国為替市場の直接的な取引主体が金融機関に大きく偏っていることは明らかだ。

現代の金融市場では、世界中の銀行、機関投資家、ファンドなどが、資産運用、ヘッジ、裁定取引といったさまざまな目的で資金を動かしている。

こうした市場で形成される価格や金利は、国内の家計や企業の経済活動を、どれほど直接的に反映しているのだろうか。

そして、中央銀行が政策金利を変更したとき、その効果は想定どおり実体経済まで届いているのだろうか。

3. 巨大な金融市場が政策金利の効果を変えている

ニューケインジアンの標準モデルでは、中央銀行が政策金利を変更すると、それが家計の消費や企業の投資に影響し、景気や物価を調整すると考える。

しかし現代では、その間に銀行、投資ファンド、保険会社など、多様な金融仲介機関が存在する。これらの金融機関は、政策金利の変化に対して必ずしも同じ行動を取らない。

BISの2024年の研究では、デンマークの融資市場について、次のような結果が報告されている。

Nonbanks increase their credit supply after a monetary contraction

ノンバンクは金融引き締め後に信用供給を増加させる。

出典:BIS Working Papers No.1211(2024)

https://www.bis.org/publ/work1211.pdf

この研究では、銀行が金融引き締めに対応して融資を減らす一方、ノンバンクは融資を増やし、企業投資や家計消費への影響を緩和する現象が確認された。

つまり、金融市場が政策金利の効果を吸収するバッファーとして機能する場合がある。

さらに問題を複雑にするのが、金融市場のグローバル化である。

IMFのギータ・ゴピナート氏は2025年5月の講演で、新興国における金融政策の波及効果は先進国より弱く、国内の金利政策が国際金融環境に大きく左右されることを指摘した。

例えば、米国の金融引き締めによって国際金融環境が悪化した場合、新興国が自国の政策金利を引き下げても、国内の市場金利が上昇することがある。

出典:IMF「Steering through the Fog: The Art and Science of Monetary Policy in Emerging Markets」(2025)

https://www.imf.org/en/news/articles/2025/05/07/sp050725-science-of-monetary-policy-in-emerging-markets-gita-gopinath

ドルを通じて世界の金融環境に大きな影響を与えられる米国と、日本や新興国では、金融政策を取り巻く条件が異なる。政策金利を独立して決められることと、国内の金融環境を自由に制御できることは同じではない。

BISは2025年12月の報告でも、ノンバンク金融機関の拡大について次のように指摘している。

there could be dampening and amplifying effects.

波及効果を弱める場合も、強める場合もある。

出典:BIS Bulletin No.116(2025)

https://www.bis.org/publications/bulletin-116-rise-non-bank-financial-institutions-implications-monetary-policy

重要なのは、政策金利が効かなくなったと断定することではない。

金融市場の発達によって、政策金利の効果が誰に、どの程度、どのような経路で届くのかが変化しているということだ。

金融市場から直接資金調達できる大企業と、銀行融資に依存する中小企業では、利上げによる負担も異なる。

中央銀行が金利を引き上げることで国内の投資や雇用を抑制できたとしても、それが期待した円高や国民生活の改善につながるとは限らない。

では、そもそもインフレによって何が損なわれているのだろうか。

4. そもそもインフレの何が悪いのか

インフレが問題視される最大の理由は、物価上昇に賃金が追いつかず、国民の購買力が低下することではないだろうか。

もちろん、預貯金の実質価値の目減りや価格変動による非効率など、ほかにも問題はある。しかし、実質賃金の低下は個人消費を弱め、企業の売上や設備投資、雇用にも影響する。実体経済全体の需要に直結する問題である。

日本銀行の内田副総裁も、2025年7月23日の講演で次のように述べている。

先行きについては、先ほどご説明したとおり、賃金の上昇は続くと見込まれますので、物価上昇との相対的な関係が重要になります。

出典:日本銀行・内田眞一副総裁「最近の金融経済情勢と金融政策運営」(2025年7月23日)

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/ko250723a.htm

実質賃金を改善する方法は、物価上昇率を下げることだけではない。名目賃金を引き上げることでも改善できる。賃金上昇と生産性向上によって購買力を高められれば、需要の拡大にもつながる。

では、インフレを抑えるために利上げを行い、需要を減らすことは合理的なのだろうか。

IMFは2024年10月の分析で、供給制約が一部の分野に集中している場合、過度な金融引き締めは経済縮小や資源配分の歪みを引き起こしかねないと指摘している。一方、供給制約が広範囲に及び、需要も強い場合には、金融引き締めによって比較的小さな生産損失でインフレを抑えられる可能性も示した。

出典:IMF「Global Inflationary Episode Offers Lessons for Monetary Policy」(2024)

https://www.imf.org/en/blogs/articles/2024/10/16/global-inflationary-episode-offers-lessons-for-monetary-policy

つまり、インフレの原因と経済の供給状況によって、適切な政策は異なる。

特に重要なのが、実体経済の供給能力である。

例えば、ジンバブエのハイパーインフレを日本の財政・金融政策への警告として持ち出す議論がある。しかし、IMFによれば、ジンバブエでは1999~2008年に実質GDPが40%以上縮小し、生産活動や公共サービスが深刻な打撃を受けていた。そこに中央銀行による巨額の準財政活動と通貨供給の拡大が重なったのである。

出典:IMF「Zimbabwe: 2009 Article IV Consultation」

https://www.elibrary.imf.org/view/journals/002/2009/139/article-A001-en.xml

大規模な生産基盤を持つ日本と、供給能力が大きく毀損した当時のジンバブエを、通貨発行という一点だけで比較することはできない。

インフレを考えるうえで重要なのは、需要に対してどれだけの財やサービスを供給できるかという実体経済の能力である。

供給不足が問題なら、需要を抑制するだけでなく、供給能力そのものを増やす方法を考えるべきではないか。

しかも、利上げによって設備投資や研究開発が抑制されれば、将来の供給能力の拡大まで妨げる可能性がある。

インフレ率を下げることと、国民を豊かにすることは同義ではない。

5. 日本に必要なのは利上げより技術革新への投資

日本に必要なのは、技術革新への投資を通じて実体経済の供給能力を高め、持続的な賃上げにつなげることではないだろうか。

高市首相は2026年2月20日の施政方針演説で、日本経済の課題を次のように説明している。

圧倒的に足りないのは、資本投入量、すなわち国内投資です。その促進に徹底的なてこ入れをします。

出典:首相官邸「第221回国会における高市内閣総理大臣施政方針演説」(2026年2月20日)

https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/0220shiseihoshin.html

AI、半導体、省力化技術、エネルギーなどへの投資は、短期的には需要を増やす一方、将来的には生産性と供給能力を拡大する。供給能力の拡大は、物価上昇圧力を和らげながら実質賃金を引き上げるための基盤となる。

ここで重要になるのが、金融政策と設備投資の関係である。

日本銀行の研究者による2025年5月のワーキングペーパーでは、次のように報告されている。

近年、グローバルに設備投資の金利感応度は低下傾向にあること

出典:日本銀行ワーキングペーパー「わが国における設備投資の金利感応度―パネルLP-IVを用いた検証―」(2025年5月29日)

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2025/wp25j04.htm

この研究では、無形資産投資の割合が高い企業ほど金利への感応度が小さく、成長期待や人手不足も投資の金利感応度に影響することが示されている。

現代の企業投資は金利だけで決まるわけではない。将来の需要見通しや技術革新への期待も重要な要素となる。

つまり、金利操作だけで景気や投資を調整しようとするのではなく、企業が将来の成長を期待できる環境を整えることが重要だ。

高市首相は2026年10月5日の所信表明演説でも、次のように述べている。

「企業が投資する」「賃金が上がる」「消費が伸びる」

出典:首相官邸「第222回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説」(2026年10月5日)

https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/1005shoshinhyomei.html

この成長の好循環を成立させるためには、投資によって生み出された付加価値が賃金にも反映され、消費と次の投資につながる必要がある。

政府が成長投資や賃上げを促進する一方で、中央銀行が金融引き締めを進めるなら、両者の政策効果を合わせて検証する必要がある。

日本銀行法第4条も、金融政策が政府の経済政策の基本方針と整合的になるよう、政府と日本銀行の密接な意思疎通を求めている。

出典:日本銀行法

https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000089/

中央銀行の独立性は重要だが、それは政府の経済政策と無関係に金融政策を運営するという意味ではない。

目指すべきなのは、需要を抑えてインフレ率を下げることだけではなく、技術革新と供給能力の拡大によって実質賃金と国民生活を改善することである。

6. ノーベル賞理論を金科玉条にしてはいけない

今回のノーベル経済学賞は、ニューケインジアン・マクロという現代の金融政策の基礎を築いた研究に贈られた。その学術的な功績は大きい。

しかし、1970年代の経済問題を背景に発展した理論が、2026年の経済をどこまで説明できるのかは別の問題である。

ブラジルのニュースサイトUOLは、10月14日に「ノーベル経済学賞は、もはやすべてを説明できない理論を表彰した」という記事を掲載した。

as teorias laureadas nem sempre representam, no momento do anúncio do prêmio, a última palavra em economia.

受賞した理論が、受賞発表の時点で経済学の最終的な答えを示しているとは限らない。

出典:José Paulo Kupfer「Nobel de Economia premia teorias que já não explicam tudo」(UOL、2026年10月14日)

https://economia.uol.com.br/colunas/jose-paulo-kupfer/2026/10/14/nobel-de-economia-de-2026-vai-para-teorias-que-ja-estao-em-declinio.htm

この記事は、ニューケインジアン系のDSGEモデルが2008年の金融危機を予測できなかったことや、その理論的前提が主流派経済学の内部でも批判されていることを紹介している。

ジョセフ・スティグリッツ、ポール・クルーグマン、ポール・ローマーといった他のノーベル経済学賞受賞者や、国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストであるオリヴィエ・ブランシャールのような著名な経済学者も、「ニューケインズ派」理論とその経済政策への影響を頻繁に批判している。

ここまで見てきたように、金融市場は巨大化し、国境を越えた資本移動が活発になった。金融資産の保有は偏在し、政策金利の変更が家計や企業に及ぼす影響も一様ではない。

にもかかわらず、日本の経済報道では、インフレや円安への対応として利上げを求める論調が目立つ。特に高市政権が利上げに慎重な姿勢を示すと、それを日銀の独立性や市場の信認の問題として論じる傾向がある。

しかし、本来問うべきなのは、利上げによって何が改善するのかという経済的な効果である。

日本銀行法第2条は、金融政策の理念を次のように定めている。

物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること

出典:日本銀行法第2条

https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000089/

つまり、物価の安定は国民経済の健全な発展に資するためのものである。

インフレによって実質賃金が低下しているなら、まず考えるべきは国民の購買力をどう回復させるかだろう。需要を抑制して物価上昇率を下げても、その過程で賃金や雇用が悪化するのであれば、何のためのインフレ対策なのか。

まして日本では、将来の供給能力を拡大するための設備投資や技術革新が重要な課題となっている。金利の引き上げが、そうした投資を妨げる可能性も評価しなければならない。

中央銀行の独立性は必要である。しかし、独立性とは政府に反対するために金利を上げることではない。政府の経済政策との整合性も踏まえながら、経済情勢に基づいて自主的に判断することである。

今年のノーベル経済学賞でも、今年の経済を説明しきれるわけではない。

必要なのは、過去に築かれた理論を否定することでも、無条件に信奉することでもない。

現代の金融市場を動かしているのは誰なのか。政策金利は実体経済にどのように作用するのか。そして、日本の供給能力と実質賃金をどう高めるのか。

今の経済を説明し、今の経済に必要な政策を考えるためには、今の市場と実体経済を見なければならない。

Sandustry(サンダストリー)実績コンプ攻略|100万Goldの貯め方とフラクサイトの作り方

Steamで配信されている『Sandustry(サンダストリー)』の全16実績をコンプリートしたので、攻略中にハマったポイントをメモしておく

Steamストア: store.steampowered.com

Sandustryは、砂や液体などの物理的な挙動を利用しながら、資源を加工して設備を増やし、地下を探索していくゲームだ。

実績コンプリート自体はそれほど難しくなく、普通にゲームを進めていけば大半の実績は解除できる。唯一、意識して攻略する必要があったのが「100万Goldを貯める」という実績だった。

また、ゲーム内の説明だけでは分かりにくい生産設備もいくつかある。特にフラクサイトの生成は少し癖があるので、こちらも詳しく紹介する。

100万Gold実績「Heliodyne Tycoon」の攻略

マップの砂を全部Goldにしても足りない

100万Gold実績は、コレクター内に100万Goldを貯めることで解除される。

基本のおさらいとして、単に砂金を集めるだけではなく、コレクターに入れなければ所持Goldとしてカウントされないは押さえておこう。

私は地下で採掘した砂をGoldに変換し、コンベアベルトとランチャーを使って地上まで運び、空中に建設した巨大なコレクターに貯め込む方法を採用した。

地下は地形が複雑で整地もできないため、大規模な貯蔵施設を建設するのには向いていない。一方、地面より上の空間にはほとんど障害物がないので、自由に施設を拡張できる。

そこで、地上に巨大な貯蔵スペースを確保したわけだ。

しかし、ここで問題が発生した。

マップに存在する砂をすべてGoldに変換しても、100万Goldに届かなかったのだ。

不足分は約10万Gold。

研究に使ったGoldが原因かと思い、今度は不要な研究を節約しながら最初からやり直した。

しかし、そんな必要はなかった。 やり直しプレイ中に初回ではスルーしてた要素に気付いたのだ。

ストラタコアで砂を追加生成できる

ゲームを進めると入手できる「ストラタコア」は、地形を生成できるオブジェクトだ。

このストラタコアを利用すれば、マップに最初から存在する砂を掘り尽くした後でも、新たに砂を確保できる。

ストラタコアが生成した地形は手動で破壊する必要があるが、これを繰り返せば100万Goldに足りない分を補える。

実際に私も、この方法で不足していた約10万Goldを確保し、実績を解除できた。

つまり、100万Gold実績の攻略で重要なのは、研究費を節約することではなく、ストラタコアを利用して砂を追加で確保することだった。

同じようにGoldが足りずに困っている人は、最初からやり直す前にストラタコアを試してみてほしい。

液体Goldを利用する方法もある

私は砂金の状態で巨大なコレクターに貯め込んだが、後から調べたところ、Goldを液体にして貯蔵する方法もあるようだ。

液体Goldは同じ面積に貯められる量が固体の2倍になるため、100万Goldを貯蔵するために必要なスペースを半減できる。

この方法なら、巨大な空中コレクターを建設する手間をかなり減らせそうだし、砂山を崩して均す手間もいらなくなりそう

こちらは自分では試していないが、これから100万Gold実績に挑戦する人は検討してみるとよいだろう。

フラクサイトの生成方法と注意点

フラクサイトは後半で生成できる

武器やツール、ドローンのアップグレードに必要な「フラクサイト」は、序盤では地下に存在するものを採掘して入手する。

生成器が使えるようになるまでは入手量が限られるため、序盤は必要なアップグレードを優先して節約した方がよい。

しかし、ゲーム後半になると「フラクサイト生成器」を使って追加生産できるようになる。

材料となる赤砂には限りがあるため、無限に生産できるわけではない。それでも、攻略に必要な分は確保できると思うので、生成できるようになったら、そこまで神経質にアップグレード項目を選ぶ必要はなくなる。

ただし、フラクサイトの生成にはいくつかの工程があり、初見では少し分かりにくい。

1. ヴォイドペタルを入手する

まずは材料となる「ヴォイドペタル」を用意する。

ヴォイドペタルは、次の手順で入手できる。

  1. ヴォイドリフトからヴォイドシードを入手する。
  2. ヴォイドシードをプランターボックスに植える。
  3. 成長してヴォイドフラワーソイルになったら破壊する。
  4. 放出されたヴォイドペタルを回収する。

初見では何を言ってるかわからない単語の羅列だがこうとしか説明しようがない。 このゲームでは他の自動化ゲームのような常識は通用しない。 ちなみに、プランターの通常使用時の植物の種とは異なり、この工程に水は必要ない。

また、成長したヴォイドフラワーソイル(結晶化した紫の枝っぽい奴)を破壊することでヴォイドペタルを入手できる

2. ヴォイドペタルと赤砂からヴォイドブルームを作る

次に、ヴォイドペタルと赤砂を反応させて「ヴォイドブルーム」を作る。

ヴォイドペタル + 赤砂 → ヴォイドブルーム

ここで重要なのは、ヴォイドペタルと赤砂を上下方向に接触させること。 どっちかにどっちかを上から振りまいておけばいいだろう。 通常は赤砂がたまってる所にヴォイドペタルを振りまく形になると思う。

ヴォイドペタルは軽い素材だが、重力で落下するため、通常の配置であれば特別な回収方法を考える必要はない。

3. フラクサイト生成器でフラクサイトを作る

完成したヴォイドブルームを「フラクサイト生成器」に投入すると、フラクサイトを生成できる。

この装置の仕組みは少し特殊だ。

  • 上側: ヴォイドブルームを投入する。
  • 下側: フラクサイトが生えてくる。

つまり、ヴォイドブルームを上から投入すると、生成器の下側にフラクサイトが成長する仕組みになっている。

ここで重要なのは、生成器の上下の空間を厳密に分離すること。

上側にはヴォイドブルームを供給し、下側にはフラクサイトが成長するための空間を確保する。

投入経路と生成・回収経路が混ざらないように設備を配置する必要がある。

この上下の役割を理解しておけば、フラクサイト生成器の使い方で迷うことは少なくなるはずだ。

フラクサイト生成のまとめ

一連の製造工程をまとめると、次のようになる。

ヴォイドシード → ヴォイドフラワーソイル → ヴォイドペタル →(赤砂と反応)→ ヴォイドブルーム → フラクサイト生成器 → フラクサイト

ポイントは、ヴォイドペタルの入手方法、赤砂との反応条件、そしてフラクサイト生成器の上下の構造だ。

序盤はフラクサイトの消費を抑えつつ探索を進め、生成器を解放したら必要なアップグレードを進めていくとよいだろう。

おわりに

Sandustryの実績コンプリートで最も苦労したのは、やはり100万Gold実績だった。

マップの砂を掘り尽くしても足りず、最初からやり直すことまで考えたが、ストラタコアを使えば解決できた。

これから挑戦する人は、100万Goldのために研究を極端に節約したり、最初からやり直したりする必要はないということを覚えておいてほしい。

フラクサイトについても、序盤こそ貴重なリソースだが、後半には自分で生成できるようになる。生産工程の仕組みさえ理解しておけば、それほど難しくはない。

本作は、砂や液体の挙動を観察しながら設備を組み立て、試行錯誤によって問題を解決していくところが面白いゲームだ。

今回紹介した攻略情報が、実績コンプリートやゲーム進行で困っている人の参考になれば幸いだ。